画像の中の「海へと続く坂道」に行ってきた

 毎年、夏が近づくと「夏を感じる画像貼ってけ」というようなスレが2chに立ち(まあ夏でなくとも見られたりはするが)、もう散々貼り尽くされたような「夏を感じる画像」が貼られ、まとめられ、記憶の中にしか存在しない夏の景色に大人たちが悶絶するという様式美が見られる。きっと今年も見られるだろうし、来年も見られるだろうし、再来年も見られればいいと思うが、そうしたときによく貼られる画像の中に、こんなものがある。

 自転車で坂道を下る、夏服の女子高生を後ろから写したもの。まあ中学生である可能性もあるし、そもそも中身はそのどちらでもないという可能性もあるがそこは信仰の問題なのでここでは女子高生とする。坂の先には海が広がり、右手に写っているのは恐らく学校だろう。中々に夏である。けれども、もしも「夏を感じる度数」なるものが存在しているのだとすれば、この写真の「夏を感じる度数」はそこまで高くない。この写真の海の青や、空の青は余りに淡く、日差しにも余り力があるようには見えない。「そんなこと言われても、これ真夏に撮ったんだぜ?」と言われても、それは余り問題ではない。「夏を感じる度数」における「夏」とは、カギ括弧つきで語られる「夏」なのだ。その「夏」は、人々の記憶として存在する。記憶は思い出されるたびに「夏らしさ」を強調され、再記憶される。空と海は青さを増し、雲はより白く、日差しは一層強くアスファルトを焦がし、影は濃くなっていく。そしてそれがそのまま「夏を感じる度数」なのだ。だから、この画像の「度数」は余り強くない。

 けれども、この画像はストーリーを想像させる。登校中なのだろうか、それとも下校中なのだろうか。どちらにしても、他の生徒の姿があまり見えないので、通常の登下校時間とは少しずれている可能性がある。例えば部活の朝練や、委員会活動で普段よりも速く登校しているのかもしれない。実はこの子は遅刻常習犯で、皆が登校し終わった10時頃ゆったりと登校している途中なのかもしれない。はたまた時期は夏休み、部活動へ向かうところという可能性もあるだろう。他にもいくつもの可能性があり、その可能性の数だけのストーリーを想像してしまう。こんな風景の中を毎日登校するのはどんな気分なのだろう。夕暮れ時にはここからどんな景色が見えるのだろう。ここを舞台に過ごす高校生活はどんなだろう。「夏を感じる度数」は高くはない。けれど、「夏を感じる画像」群の中に放り込まれ、「夏」の風景として認識されたこの画像は、そうして想像される色々なストーリーも相まって、個人的にかなり好きな1枚だった。

 さて、いつのことだったか「夏を感じる画像まとめ」を見ているときに(不定期にちょくちょく見る)ふと思った。「一体この坂道はどこにあるのだろう」と。とりあえずGoogle画像検索で、画像urlから検索してみるがどうにもそれらしいものは見当たらない。この画像が貼られているまとめサイトなんかも回っては見たけれど、まあ場所は書いていなかった。海の見える坂道、とかで画像検索してもみたが見つからない(つって今検索したら1枚見つかったのだけど、まあ鎌倉としか書いてなかったからスルーしたのかもしれない)。まあ、そこまで執着があるわけでもなかったし、当時の自分には他に検索する方法も思い浮かばず、諦めていた。

 つい先日、改めてくだんの画像を見ていたら、画像右の電信柱になにか書かれていることに気付いた。ハッキリとは判別できないものの「バン○ットホール ○○ヶ浜」とかそのようなことが書かれている。これは……と「バン ホール ヶ浜」で検索してみると、「バンケットホール七里ヶ浜」という鎌倉の宴会場がヒットした。これはもう間違いない、と「バンケットホール七里ヶ浜」で改めて検索。地図を見て間違いなくここだと思った。表示された地図に「七里ガ浜高校」とあったからだ。ストリートビューを表示して感動してしまった。

https://maps.google.co.jp/maps?hl=ja&ll=35.305705,139.51467&spn=0.001872,0.004128&sll=35.319225,139.546687&sspn=0.119756,0.264187&gl=jp&brcurrent=3,0x60184f42355a06f5:0x1990e94774baa3a5,1&t=m&layer=c&cbll=35.305761,139.514465&panoid=oy2gcTDYf3dB6L5Mw9tFgw&cbp=12,217.64 0,-0.7&z=19

 というわけで、折角見つかったのだし、鎌倉は行けない場所ではないし、ってことで行ってきた。

 携帯のカメラなのと私のスキルではまあこんなもん。実際にはちゃんと坂を登り切った辺りから、道路の左側に立って若干望遠で撮ったのではなかろうか。多分、これを撮った自分が立っているくらいに画像の女子高生がいたと想像する。いや、カメラのことはからっきし分かんないから想像なんだけど、そうだよね……どうなの……?(詳しい人もし読んでたら教えてください)。いや、まあ、じゃあそこから撮れよ、という話なのだけど、これを撮ったすぐ後ろの家が、絶賛お庭手入れ中で、庭師さんの車が数台路上駐車されていてね……凄く邪魔だったんだよね……。

 しかし、実際撮影者と同じ場所に立ってみて、あの画像の素晴らしさ(というか写真の奥深さ)を感じることしきりだった。実は、坂に辿り着いてから、あの写真はどこから撮られたのだろう、とその場所を探してみるのだが、中々分からなかった。まあひとえに自分の観察力と想像力が貧困であるせいなのだけど、くだんの画像を携帯で見ながらここでもないそこでもないとうろうろしてしてしまった。やっとこさこの辺かな、という場所に立ったとき純粋に驚いてしまった。こんなところから撮ったんだ、という。自分の中にない視点を体感する瞬間っていっつも驚く。ああ、こんな視点があったのか、っていう。今まで見ていた景色が、違って見える瞬間というか。写真を嗜む人にとっては何でもないようなことなのかもしれないけれど、そもそも望遠で撮影する、という発想がカメラやらん自分にはなかったよ。いかに頭が凝り固まってるか、っていう話でもあるんだけど。

 そういえば、場所が分かったことで画像の撮られた時間がある程度特定できたのも嬉しいことの一つ。この坂道は南北にまっすぐ走っていて、海側が南になる。画像の影は右側に伸びているので、つまり日は東からのもの、つまり午前中ということだろう。10時前とか、9時くらいかもしれない。ちなみに今回撮ったのは13時過ぎ。

 まだ時期が六月で、かつ空が晴れていなかったことは残念だったけれど、この坂道が日本の鎌倉は七里ヶ浜に存在していて、実際にそこに行って、画像の景色をこの目で見れたことは、すごくよかった。今度は夏に、もっと晴れた日の午前中に行こうと思ってる。

 しかし、こないだアイスランド行ったときにも思ったのだけど、こういうときカメラ欲しいなあ、って思うよね。正確に言うと、カメラ買ってもうほんの少しだけ写真のいろはを知っておこうかな、って感じなのだけど。結局そんなに使う機会ないからなって毎回やめるんだけど。でもこれからもこういうことあるなら買っておいたら、どうしたって忘れていってしまう記憶を、もうすこし綺麗な写真で残しておけるのかなあ、なんて思ったりもしている。まあきっと、始めてみたら余計その難しさに気付くようになるのだろうけど。

 あ、超余談ですけど、折角だから紫陽花でも見ていくかって思って極楽寺で下車したら平日なのにすごい人いてうんざりした。あと老人とおばさんばっかりで日本には老人とおばさんしかいないのかもしれないと思った。極楽寺で下車する大量の老人、と書くとなにか複雑な気持ちになるな。

 なんにせよ、中々楽しい一日だった。