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ふしぎの海のナディアを見たよ。

 去年の11月末あたりに発売とほぼ同時に買った「ふしぎの海のナディア」のBlu-RayBOX。やっとまとまった時間が出来たので二日間かけて全話通して見た。ということで、その感想。ナディアの内容に触れているのでまだ全話見ていない、と言う人は注意。

 初恋の人はナディアだった……とまで言うと少し嘘になってしまうか。「ふしぎの海のナディア」がNHKで放送された当時、自分は幼稚園生だった。放送以前に「ひとみちゃん」とかいう女の子を好きだったような記憶があるので、「ひとみちゃん」を初恋とするのなら、ナディアを「初恋の人だ」というとやはり嘘になる。けれど、そんな言葉を使いたくなるくらいナディアが好きだった。なにせ小学校の頃、とある女の子を、ただ色黒であるというその特徴だけをもって「ナディアみたいでかわいい」と言っていた記憶がある。写真を見ても、思い返してみても、彼女は(色黒である点を除けば)ナディアとは似ても似つかない子だったというのに。小学生にして、現実世界でナディアを探していたなんて、どんだけナディア好きだったのか。あと、中学校の頃好きだった子、思い出してみれば色黒だったよ……偶然だと思いたいけれど、どうだろう。業が深いよ。

 閑話休題。

 ともかく、褐色の肌を持つあの少女がずっと好きだった。地上波の放映以降一度も本編に触れることがなかったのに、OPの「ブルーウォーター」も、エンディング「Yes, I will」もずっと覚えていた。田舎に帰郷中、窓を開け放してブルーウォーター熱唱してたのが裏の家の家族にだだ漏れで後日からかわれたなんていう妙に恥ずかしい思い出もある。なんか思い返すと地味につらい過去を引きずってくるが「ふしぎの海のナディア」という作品はそんな具合に、特別な作品として自分の中にずっと残っていた。

 放送当時幼稚園生だった自分だけれど、あれから20年。今では三十路も近いって年齢になっていて、見るのが少し恐かった。というのも、本編をほとんど覚えていないのに、ナディア大好き!みたいな記憶によって期待だけ妙に膨らんでいたからだ。実際に見たら凄い残念な気持ちになるんじゃないかと、そんなことを思っていた。のだけど。

 完全に杞憂。

 内容をおおかた忘れていたのは幸いだった。すごく新鮮な気持ちで楽しむことができた。ナディアとジャンの出会いから、グランディスハンソンサンソン三人組とのドタバタ劇、ノーチラス号の出現と、手に汗握る海中戦、マリーとの出会い、ネオアトランティス。ナディア救出劇、ノーチラス号に乗ってからの大冒険。22話でノーチラスが壊れてしまうまで、本当に楽しみながら一気に見た。23話から34話まで(通称「島編」)は自分の中でなかったものとなったけど、その辺の裏話について知れたのも面白かった(詳細はwikiとか読むといいと思います)。最終5話に入ってから、島編でのフラストレーションを払拭するノリと勢いとクオリティでぐいぐい物語が収束していく。全編を通して細かい部分でのツッコミどころというか、首をひねりたくなる部分は(島編を除いても)いろいろとある。人によっては、その部分が引っかかって温度が下がってしまう、という人もいるのだろうと思う。それでも、そういった部分を含めて強引に引っ張っていく、引き込んで行く力のようなものがあの作品には満ち満ちていたし、それが最終5話には集約されていたと思う。特に、エピローグからエンディングへの流れ。あれで「ああ、もう細かいことはどうでもいいや」って思ってしまった。

 本編最後のシーン、実は見てて少しだけ盛り下がっていた。だってガーゴイルさんが悪役として余りにもあれすぎたし、兄貴も急に意識取り戻したと思ったらいきなり奇跡起こしちゃうし、その直後ジャンの楽見的な「大丈夫だよーノーチラス号が助けてくれるよー」だし、あっさりジャン落下死するし、だけどブルーウォーター使って生き返せるらしいし、そんで生き返るけど最後ジャン寝てるから完全に置いてけぼりだし、他にも色々、ちょっと都合良すぎるだろ……という部分は拭えずにいて。でも、それでも引っ張られるんだよね。映像と台詞と音楽に。兄貴が意識取り戻したあと、ナディアに向かって歩いて行くシーンは映像の力すごかった。電源ケーブル引き抜かれたところはギャグだろ、と思ったけど、それでもあのシーン最後まで演出と映像が素晴らしかった。あと、最後お約束の船長が残って血路開くっていう展開もやっぱり上手くって、グランディスとエレクトラって自分を愛してくれた女性二人にちゃんと言葉を残す辺りにネモのかっこよさ溢れてて、エレクトラに至っては下腹部に手を当てるおまけつきで、極めつけは「ナディア、どんなことがあっても生きろ」って父としての叫びだよ。もうこれはなんかずるだろ。なんだよー、こういうのずるいよーって思いながら見てた。若干盛り下がりながら。

 だけど、エピローグとエンディングでもう全部いいやって思えた。

 エピローグは、A.D.1902というテロップからはじまる。テロップの後、そばかすで赤毛の女性が画面に現れる。12年後のマリーだ。エピローグは、大人になったマリーによって語られるのだ。その後の皆の生活を、あのマリーが語りはじめる。語られるその後の世界では、ノーチラス号の皆が、グランディスが、ハンソンが、サンソンが、キングが、ジャンが、ナディアが、それぞれの人生を生きている。みんな、幸せに生きているんだよ。当たり前の日常を。もうそれだけで、すべていいや、って思ってしまった。キャラクターたちが幸せに生きているのなら、それでいいって。そして、エピローグからエンディングへと繋がっていく。目頭が熱くなってしまった。ああ、ここに収束するのかよ、と。

 とりあえずエンディング貼っておきますね。俺はもうこの曲今までと同じ気持ちでは聴けないよ。しにたい。
 ふしぎの海のナディアED「Yes, I will...」

 Blu-RayBOXの特典の冊子に載っていた庵野監督のインタビューでも、監督自身がそのシーンについて語っている。自身を『演出家ではなく、主役から端役までみんな僕がひとりで演じている、一人芝居をしてみせる芸人だ』とし『「ナディア」はぼくの回想録だった』と前置いた上で。

 最終回にエピローグをつけましたが、エピローグの最後のエンディングにつながる瞬間がすきなんです。39回の作業をやっていても、途中まで全然、最終回だという感慨がなかったんです。それが編集をやっているときに蔭川(昭夫)さんが「じゃあ、エンディングとつなげますよ」といって、エピローグとエンディングのフィルムをつなげて、試しに見たときに「ああ、終わったんだ」という感慨が背筋から頭へと電気が走るみたいにかけぬけたんです。なぜなんだろうと思ったら過去と現在があそこでつながったんですよ。ちょっと難しいいい方になっちゃいますけれど。

 ぼくにとっては『ナディア』のエンディング・フィルムって少年時代の郷愁などの想いをセピア調にして、こめたものなんです。そして、エピローグには現在の自分がこめられているんですよ。

――1回から39回の本編までには過去がこめられていて。

庵野 ええ。本編が過去で、次にその過去を「……という昔の話がありました」と思い出してる、現在であるエピローグへとんで、また、エンディングで過去への郷愁へもどって終わるんです。その瞬間に万感の想いがこみあげてきたんです。

Directly After(放映終了直後インタビュー)より

 このインタビューを読むと、庵野監督自身、この時間の流れは意図的に作ったわけではないのかもしれない。どちらにせよ、そこにはそうした時間の流れが確かに存在していて、それに完全にやられてしまった。

 監督の話の繰り返しになってしまうけれど、マリーはエピローグ冒頭、こう言って話し始める。「この物語はこれで終わりますが、みなさんにその後のお話を少ししておきましょう」。つまり、エピローグのマリーたちにとって、本編は「過去」だ。だから、語られる「その後」とは、つまり「現在」の話ということになる。そうして語られる「現在」のみんなは、それぞれの「日常」を「生きて」いて、幸せに笑っている。そうやって「現在」のみんなの姿を見せておいてから、エンディングが流れる。そこには子供時代の3人と1匹がいる。セピア調の画面の中で、ナディアが、ジャンが、マリーが、キングが、プロペラ機を追いかけて走っている。流れる曲は、ずっとエンディングに流れ続けたあの曲だ。

 本編は「あの頃」として語られる「過去」だった。だから、今まで「現在」だと認識していたエンディングも、エピローグを通して「過去」に変化する。そのとき、エンディングが見せるのは思い出される「記憶」だ。1話から39話まで続いてきたこの物語が、その記憶が、あの短いエンディングには映し出されている。

 このエピローグとエンディングがあるから、「ふしぎの海のナディア」が好きだって、迷わずに言い切れる。そう思わせるに足る、最終話だと思う。

 だから、最後に言える感想は一言で、よかった、です。

 あと、前置きであれだけナディアナディア言っておきながらナディアの可愛さについてまったく触れなかったけど、ナディアは可愛いかった。すごい。島編はできればなかったことにしたいし、島編以外でも思うところはないでもないけど、やっぱりナディアは好きだ。我儘で、強情で、意地っ張りで、素直じゃなくて、辛辣で、そのくせ見た目の割に結構ネガティブで暗くって、だけど、それでも、そういうナディアが好きだな、と思ったし、過去の自分にナディアが自分の女性の好みに与えた影響とんでもないと思った。あと、物語前半のジャンの超人っぷりに度肝抜かれるばかりでしたね……今回見返して一番驚いたのはジャンが思っていたよりずっと超人だったこと。

 細かい感想書いてるときりないのでこの辺で。

 あ、ちなみに、ナディアで好きなシーンは色々あるけど、9話で、ネモがノーチラスに乗ってる子供がナディアって分かった瞬間ジャンとナディアの部屋分けたシーンはすごい好きだなって思った。あとエンディング曲胸に響きすぎてつらい。

 おしまい。

ふしぎの海のナディア Blu-ray BOX【完全生産限定版】

ふしぎの海のナディア Blu-ray BOX【完全生産限定版】