創作

深夜三時のタルトケーキ

砂漠だった。時刻はまもなく午前二時になろうかというところだ。僕は砂漠を歩いていた。どうやら砂漠を越えた先を目指しているようだった。僕はここではないほかの場所にいる可能性もあったのだが(例えば山岳地帯であるとか)、僕は砂漠地帯にいるように決…

明けぬ夜、そして

夏至が、消えた。 それは決して、夏至と言う言葉がなくなったとか、夏至というもの――つまりは一番昼間が長い日――をいちいち人々が意識しなくなったとか、そういうことではない。夏至という現象そのものがなくなったのだ。今年の夏至の日に、夏至と冬至の間で…

朝の電車と文庫本

『2番線電車参ります。黄色い線の内側までお下がりください』 アナウンスの少し後に、電車がホームに滑り込んでくる。僕は一番先頭車両が停車する位置で電車を待っていた。07:28最寄り駅発の下り電車。僕はいつもその電車の先頭車両の一番前に乗る。高校との…

世界の終わり

夕日が、世界を淡い橙に染める時間。 空を燃やして、夜の暗闇が空にじわりじわりと染み始める頃。 燃えるように輝く空の下で、世界が崩れていくのを眺めていた。 風が吹くだけで、端から砂のように音も無く崩壊していくビル。 アスファルトの道路が沈下する…

ひまわり

昔々、夜の空には二つの大きな星が浮かんでいた。一つは月、もう一つは月の妹だった。姉妹は夜になると太陽の光を受けて光を放ち、地上を照らした。地球から見るその姉妹は、ため息が出るほど美しかった。 月の妹に名前はない。その時代、言葉はまだ存在して…

収束する物語

人は変わる。 そんな当然のことを、実感する瞬間がある。それは、本当に些細な瞬間だ。紅茶を飲んでいるときだったり、朝目覚めたときだったりする。だけど、変化といってもそんなに大きなことじゃない。例えば、薄めに入れるのが好きだった紅茶を、最近では…